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宿命と運命

「宿命」とは、生まれながらに定められたもの。
親や環境、出会い、そして避けがたい出来事——
自分の力では変えられない“与えられた命のかたち”です。

一方で「運命」とは、
その宿命の中でどう生き、どう心を運ぶかという“選び取る命の道”です。
つまり、宿命は「受けるもの」、運命は「生き方によって変わるもの」。

父が癌を宣告されたとき、母は寺の娘でしたので、
やはり仏さまに祈りをささげました。
「どうかお父さんの命を救ってください」と。
お百度参りのように、毎日のように祈っていたそうです。

けれども、ある日ふと、こう思ったといいます。

「もし私がこのまま祈り続けて、それでもお父さんの命が救われなかったら、
私は仏さまを恨まなあかんことになる。
それは嫌やな。」

その瞬間、母は祈ることをやめました。

ある人から見れば、「どうしてやめてしまったのか」と思うかもしれません。「そのまま祈り続ければ命が助かったかもしれないのに」と。
けれど私は、母のその決断を正解だったと思うのです。

母は「宿命」に抗う祈りを手放し、
そのエネルギーを「宿命を受け入れて、いまを生きる行動」へと変えたのです。
祈りに体力をすり減らす代わりに、
父と過ごす一日一日を大切に生きることを選びました。
それは、ただ諦めたのではなく、
“生かされている時間そのもの”を信じ、味わう生き方だったのです。

だからこそ、父との最後の会話でこう言えたのだと思います。

「お父さんは仏さんのことが大好きやから、
きっといっぱい仏さんが迎えにきてくれて、
いい世界に連れていってくれるよ。」

母は、宿命と向き合い、受け入れ、そして運命を生きようと決意したのではないでしょうか。

本当の「信」とは何か。

信とは、信じきるということ。
期待とは違います。
期待すれば裏切られることもある。
けれど、本当の信は、何が起きても信じられる心のこと。

母の祈りは、まさにその「信」の姿だったのではないでしょうか。

最後までお読みいただきありがとうございました。